久しぶりに手に取った道具の色が、以前よりわずかに薄く見えることがあります。 触れたときの質感が、かすかに変わったように感じる場面もあります。 どれも急激な変化ではなく、光と温度の影響が時間の中で積み重なって生じる“静かな劣化”です。
ここでは、光・紫外線・温度差が素材に与える負荷と、 その負荷を小さく保つための基本的な視点をまとめます。
光・紫外線・温度差で起きる変化
色味の変化(退色・黄ばみ)
光や紫外線は、素材表面の分子をゆるやかに分解します。 白いものは黄ばみ、色のあるものは淡くなり、 長い時間の中で印象が変わっていきます。
樹脂・ゴムの質感変化
紫外線によって樹脂やゴムから水分が抜けると、 硬さが増したり、表面が荒れたように感じられることがあります。 手触りの違いは、乾燥と光が同時に進んだ結果です。
温度差による結露と金属の負荷
急な温度差が生じた際、金属表面に薄い水分(結露)が生まれます。 この水分が酸化の起点となり、劣化を進めやすくなります。
劣化を抑えるための基本原則
光が直接触れない位置に置く
直射日光はもちろん、室内の弱い光でも長時間当たり続けると負荷が蓄積します。 光源の正面を避け、光量の少ない位置に置くことで負荷は緩和されます。
温度差がゆるやかな環境を選ぶ
窓際や空調の風が当たる場所は、温度の上下が大きくなりやすい環境です。 外壁から離れた棚や、部屋の中央寄りの位置など、温度が安定しやすい場所が適しています。
素材と外気のあいだに中間層を設ける
むき出しの状態は外部環境の影響を受けやすくなります。 薄い布やカバー、箱の内部など、環境と素材の間に一層を置くことで負荷は抑えられます。
環境を捉えるための視点
素材ではなく“環境側”の構造を見る
劣化の多くは、道具そのものではなく、 光の入り方や温度の変化といった外側の環境条件によって生じます。 環境の構造を把握することが、状態を安定させる基盤になります。
負荷を直接伝えない“緩衝の層”を意識する
光・温度差・空気の流れなどの外的要因が、 素材にそのまま触れない状態をつくる考え方です。 環境と素材の間に一段のゆるみがあることで、負荷は穏やかになります。
まとめ
光・紫外線・温度差は、日常の中で静かに積み重なり、 色味の変化や結露などの現象としてあらわれます。
光を避けること、温度差の少ない環境に置くこと、 素材と外気のあいだに中間層を設けること。 これらの条件がそろうと、素材の状態は安定しやすくなります。
